永遠の進捗率90%
永遠の進捗率90%
プロジェクト管理をする中で、ある作業の進捗率が順調に推移して100%近くまで達したものの、そこから進まなくなってしまった・・・という経験をされたことはないでしょうか?今回のコラムでは、なぜそのようなことが起きてしまうのか、そうならないためには事前にどのような準備をしておくべきなのかを、TimeTracker NXの使い方も含めてご紹介します。
なぜ進捗率は「永遠の90%」となってしまうのか
プロジェクト管理ツールを使って作業の進捗を可視化する指標の一つに「進捗率」があります。進捗率とは作業の進み具合を0%~100%の数値で表したものであり、マネージャはその数値を確認することで進捗を素早く把握することができるとても便利なものです。ところが、進捗率の使い方を誤ると、実状を正しく把握できない事態に陥ってしまいます。
担当者の感覚による進捗率
プロジェクトで実施する作業はWBS(Work Breakdown Structure)として詳細化され、適度な粒度でタスクごとに担当者が割り当てられます。さらに、各タスクの進捗率はそのタスクに割り当てられた担当者に報告してもらうことが多いでしょう。
では、その担当者はどのように進捗率を求めているのでしょう?明確なルールが存在せず、感覚で求めていることもあるのではないでしょうか?
担当者が作業内容を熟知していたり、既に何度か繰り返し実施していたりする場合には、それでも問題なく運用できるかもしれません。しかし、そうでない場合、以下の理由からやることが膨らむことで進捗率がぶれてしまい、なかなか100%に到達できなくなります。
・当初から作業内容をすべて見通すことは難しいため、
途中で作業の不足に気づく。
・想定以上に修正が発生してしまう。
『悪い報告はしたくない』という心理
進捗率を感覚で決めているために、できれば問題を表面化させたくないという人間の心理が影響する場合もあるでしょう。
計画通りに進んでいるならば、それ以上の報告を求められることは少ないです。しかし、計画よりも遅れているならば、遅れの原因や今後の対策について報告を求められるでしょう。よって、多少作業が遅れていたとしても、担当者が自分で取り戻せる範囲だと考えたならば、計画通りに進んでいるという報告をしてしまった方がラクなのです。進捗率を感覚で求めているならば、自分の裁量で少し上積みして報告することもできてしまいます。
しかし、結局遅れを取り戻すことができず、タスクの終了日が近づいてしまうと報告に困ることになります。進捗率100%というのは作業の完了を意味しますので、終わっていなければ100%とは報告できません。その結果、100%近くで進捗率が進まなくなるという状況が発生してしまうわけです。
『管理できている』というマネージャの錯覚
前述の例では、進捗率が作業の進み具合を正しく表しておらず、進捗評価には使えない指標となってしまっています。では、マネージャはなぜそのような状況を許してしまうのでしょうか?
作業の進み具合が進捗率として数値化されていることで、マネージャはなんとなく管理できている気分になってしまうものです。表面上、進捗率の数字が順調に推移していると、それだけで安心してしまい、進捗率の裏にある本当の実態を確認することなく見過ごしてしまう危険性があるのです。
そういった場合、進捗率が思うように進まなくなって初めて進捗率と実態との違いに気づくことになるのですが、その時点では手遅れになっているかもしれません。担当者がどのように進捗率を求めているかを把握していなければ、進捗率の数字だけを追いかけていても管理できているとはいえないのです。
事前に準備すべきこと
進捗率の数値の意味をはっきりさせる
進捗率は作業の進み具合を数値化したものです。裏を返せば、数値から作業の進み具合を特定できるように、数値の意味をはっきりさせることが求められます。では、どのような点に気を付けて数値を割り当て、その意味を定義すれば良いのでしょうか?
プロジェクトで実施する作業(タスク)には、いろいろな種類のものが含まれます。単純な繰り返しの作業もあれば、企画・検討などのような見通しのきかない作業もあります。これらの進捗率を同じ方法で求めようとしても無理があります。タスクの特性に応じて、進捗率の求め方を柔軟に切り替えることが大切です。
進捗率には分母と分子があるわけですが、分母が揺れ動いてしまうようでは意味のない指標になってしまいますから、変わりにくい分母を選ぶことがポイントになります。単純な繰り返しの作業などで、アウトプットする成果物の成果量が明確に見積もれる場合には、進捗率を計算で求めればよいでしょう。
一方で、進捗率を計算で求めることが困難な場合には、タスクに対して複数の状態を定義し、それぞれに数値を割り当てるとよいでしょう。状態をどの程度細かく定義するかは、タスクの大きさに依存します。例えば以下のように、進捗を確認する度に進捗率が変化していくような粒度で、状態を定義することがポイントになります。
・成果物の目次や構成を決定した:25%
・内容を作成した:50%
・レビューを実施した:75%
・レビューの修正が完了した:100%
場合によっては、タスク自体を更に細かく分割し、進捗率を積み上げることもできます。このように、進捗率を何らかの考え方・根拠に基づいて求めることで、「永遠の90%」となってしまう問題を回避することができるのです。
数値の意味をチームで共有する
進捗率の数値の意味をはっきりさせても、それがチーム内で共有されていなければ意味がありません。報告する側、確認する側が数値から同じ状態をイメージできるようになって初めて、進捗率が管理に使える指標となります。担当者が作業を始める前に、進捗率の数値の意味をチーム内で共有することが大切なのです。
TimeTracker NXでの進捗率の定義方法
TimeTracker NXには、タスクやパッケージ(タスクをグルーピングした項目)の単位で進捗率を管理する枠組みが用意されています。
自動計算してくれる「ステータスから自動算出」と「加重平均」
タスク/パッケージで定義した「ワークアイテム」のWBSに対し、標準では以下のように「ステータスからの自動算出」と「加重平均」の組み合わせで進捗率を求めるようになっています。
・タスク:「ステータスからの自動算出」
予め、「実施中」:50%、「指摘対応:70%、「完了」:100%のようにステータスと進捗率の対応付けを定義し、担当者が入力したステータスに応じて進捗率を表示します。
・パッケージ:「加重平均」
下位のアイテムを規模(工数)で重みづけし、進捗率の平均値を自動的に計算します。WBSが十分に詳細化されていれば、標準の設定でもある程度正確な進捗率を求めることができます。
進捗率の決定方法を定義する「規模進捗率」
先ほど述べたように、タスクの特性に応じて、進捗率の決定方法を見直した方がよい場合もあります。
進捗率の決定方法は、タスクやタスクパッケージの単位で個別に変更できるようになっています。
例えば、成果量が正確に見積もれる場合には、成果物の完成度から進捗率を算出する「規模進捗率」を選択すればよいでしょう。
このように、意味のある形で進捗率を算出するためには、事前に進捗率の決定方法を適切に設定しておくことが大切です。TimeTracker NXなら、様々なケースに応じて進捗率の算出方法を選択でき、より精度の高いプロジェクト管理が可能になります。